フィジーの植物④Hydnophytum grandiflorum

視界まで覆う高さのコシダをかき分け前に進むときは、足元が怖い。
幾ら生長の早いコシダと言え、そんな高さにまで成長しているという事は当然人が長らく踏み込んでいないという事で、さらに言えばフィジーの山頂標高900m地点。比較的緩やかに見える尾根を歩いてはいるものの、どこでどんな落とし穴が口を開いて待っているとも限らない。
文字通り。突然崖の上に出るとかなら”ともかく”、いきなり穴ぼこが開いていたりしても不思議ではないし、人間なにも峻嶮な崖から身を投げずとも、数メートルの穴ぼこに落ちたってぽっくり死んだりも出来るもので、即死トラップにばっかり気をとられていると痛い目を見るのです。こんな場所でポッキリ足の骨でも折っただけでも立ち往生さ。

風が轟々と唸り声を上げている、と言っていいほどに猛然と流れていく。
激しく煽られる木々。葉擦れの音はさながら滝の中にでもいるかのよう。
煙るように白く霧雨。まさに雲海の中を歩いているという感覚にちょっとときめきます。

湿った風はこうして山に激突し雨となって森を潤していく。成程登って来た側は雨を振り絞った後の風が流れてきているわけで、ならこの風の先はもっと湿潤なエリアがあるという事で、そちらに行けば素敵な植物に出会えること間違いなし。今回の度の最大の目的はコケシノブなので、乾いた側から攻めたら中々遭遇しないわけである。風雨のぶち当たる、このフィジーの峰々の全く反対側に期待。
今回は結局ドライエリアから侵入し雨の豊富な方に向かった、その入り口付近のみの散策となったので、次回はその遥か先に進みたい。シダの楽園。フィジーの本領を次こそ堪能したいものです。

全身ずぶ濡れになりながら尾根伝いを進んでいくのはイイものの、中々思うような場所に辿り着けない。
流石に馬の背中の天辺ともなると猛烈な風の為か着生植物も頑強な物ばかり。フワフワしたコケなど吹き飛んでしまうのでしょう。松の表皮も見慣れた雰囲気。やはりここは斜面を降りなければならないでしょう。
という訳で滑落しないような緩やかな斜面を探しつつふらふらり。丁度好い場所を見つけたのでさて降りてみようかと踏み込んだその目の前に何やら見慣れた枝が飛び込んできました。

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おや…Hydnophytumの枝じゃんか。

特徴的な枝なのですぐわかりますが…しかしこれはデカい。
手を伸ばしても届かないくらいの高さから下垂する枝。一メートルぐらいはありますし、それを見ずとも長い年月を経たような、職人さんの節くれだった指のような厳つい枝がその株の巨大さを物語ります。こいつはすごいぞ、と枝に先を辿っていきます。行きますが…球が無い。

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苔むした木には着生木本、Medinillaの姿も。這い登るサトイモ科植物に、まるでブロメリアのように着生するアダン。
辿り辿ると木の股の、丁度着生アダンの根のあたりに辿り着きます。
根と言っても解りやすくタニワタリの根のように塊になっているわけでもなく、木と、コケと、複雑に絡み合ったサトイモと、数株が集まった着生アダンとで混沌と化していて、まるで木の一部のよう。一体化しているので、果たして木に薄く硬く根を張っているだけなのか、それとも分厚い層を成しているのか触れただけでは判然としません。

あの巨大な枝を思えば、玉の大きさはソフトボールサイズ以上にはなっていそうだけれど、とてもそんなサイズの球が隠れていそうな着生床には見えません。触っても硬い感触が返ってくるだけ。在ればふくらみを隠せるはずがない。しかしどの角度から見てもスリーサイズは変わらないわけで、これで巨大な球が隠れているとしたらこいつはどんだけ着やせするタイプなんだ…さらしでも巻いているのかコノヤロウ、とか馬鹿な事を口にしつつ…やばめの場所だと独り言が多くなるのじゃ許せ…本気で球のありかを探しても本当に見つからないし一部分も裸出していないしちょっと掘っても影も形も見当たらないので、そのうちすっげー紛らわしいだけでこの木の枝なのではなかろうかとか疑いを持ってしまう。残念ながら確認しようにもこの木の枝葉は遥か上で確認のしようも無く、これ以上どうしようもなくなってしまったのでまぎらわしいなぁと思いつつ当初の目的通り斜面を下りていく事にします。

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水が流れて、段々になっている斜面。風の当たる斜面の反対側は一転して静寂に満ちていて、苔も長く微風にそよぎ、視界のそこかしこを揺蕩っています。…遠くに聞こえる、風の音。緩やかに時が流れていそうで、小一時間もボウとしていたら地上では数十年の時が経っていそう。経ってないかな。わくわく。

とは言えこれでもまだ全力ではないらしく、コケシノブの姿は見つからない。
着生木本が数種お目見えで、根が膨らむ着生ツツジなども見られます。面白いのはやはりどう見てもブロメリアやティランジアに見える着生アダン。アダンと言っても棘は無く、棘の代わりに柔らかな褐色の毛が葉の縁を彩っています。タベウニでも見ましたが、他ではまだ見た事が無く、心が躍ります。這い登りのツルアダンFreycinetiaではなく、それ単体が着生しているアダンPandanusに見えます。や、姿がそうと言うだけで、本当に大熊猫茄子属かどうかは解りませんが。

たっぷり堪能して、けれどコケシノブはなさそうなのでまた斜面を登ります…すると。
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おや?

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おやおやおや?

Hydnophytumです。
松にどでかい塊が着生しています。あるじゃん。じゃあやっぱりさっきのもヒドノか! と驚きつつシダをかき分け近付きます。
垂直に伸びあがる枝のない松の幹。手も届かない。とんでもはねても届かないし、登ろうとしたら樹皮は剥落するけれど、まぁ何とかして登って近付きますが…まーでかい。とてもでかい。顔ぐらいありそうなサイズ。

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特徴的な長い毛…Hydnophytum grandiflorum?
毛の生えたHydnophytumは確か珍しいのですが、まさか出逢えるとは…一応アリ植物は目標ではあったし探してもいたけれど、面白い…

写真の株は上手く裸出している株でしたが、他の株は殆どコケに覆われていたり、あまつさえアダンが着生していたり…球にですよ? あの剛毛が着生植物を許容するのか、苔の塊からヒドノの枝が伸びていたり、半分以上がコケとアダンだったり、古くから在る王蟲のような有様の株が殆どでした。
最初の場所に戻ると、近くの樹のコケの中から枝が伸びていたりして、小さな株もいくつか…完全に樹に着生した分厚いコケの層の中に隠れています。そりゃ見つからないわけだ。ギリースーツ装備か。忍者め。

裸出している株はともかく、苔の中に埋もれている株は触ってもアリの子一匹出てこないのも面白い。そりゃ出入口なんかなかろうけれど。
球が完全に隠れ切っている姿を写真に収めなかったのは残念だけれど、実際隠れ切っているので樹肌だかコケだか根だかわからない場所を写真に収めることになるわけで、見ても意味が解らないだろう。断面図でも見てみたい…斬り剥がすのは決してしないけれど。とにかく変だった。
流石アリダマ分布の最東端。ミルメコもいないし、代わりにスクアメラリアなんて固有の属まで存在する分布の東の最果て…
素晴らしい…


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さて。

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トラクターに乗って移動。

…。
ずっとこれで移動していたのかって? 違いますよ。
途中までは車でした。じゃあなぜトラクターに載っているのかって?

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おおっ、あんなところにもアリダマがあるじゃないか!

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こっちは毛がなさそうな気がする…そのように見える…だとしたらHydnophytum wilkinsonii
かなぁ…近くで見てみたいけれど、流石に止めてもらうのは気が引けるし、のんびり撮影できるだけで良しとしよう。

…。
…なに? 誤魔化されないって?
うむ。
いや、なんというかですな。おほん。吾輩。この時初めて、車の中に鍵閉じ込めなんかしてしまったのでしてな。
フィジーの山頂で。
空港からここまで六時間ぐらいかけて運転してきたこの場所で。
土砂降りの雨の中、お金ない飯ないレインコートないついでに言えばこの日空港に引き返すので時間もないって状況で、

まさかの、立ち往生(爆)

細かい状況説明は省くとして、そのときたまたま一緒にいた周辺の山々の管理者さんにいろいろきわどくギリギリのところで助けてもらって合鍵の到着を待つ中(空港から同じ道を通ってくる。マジか)、そのままずぶ濡れだといろいろヤバいので一緒に行動することにしたのでした。みんな。レンタカー会社の番号ぐらいは毎回小まめに登録しとこうな! 車の中に入れてたりカバンの中に入れてたりしたららいざと言うときあがはがががが。着替えの最中にトランクばたむじゃ対応しようがないんだぜ。どんだけ彼方此方電話してレンタカー会社に辿り着いたのやら…

…まぁ結果的に、
長時間にわたって一緒に行動したことで、面白いルートが開拓出来たので、それはそれで、アリなのかもしれないけれど、ヤバかったーこれだけ彼方此方歩いていればいつかやらかすカモとは思っていたけれど。
これにより森を散策する時間は大幅に縮小され、とっぷり日も暮れてからカギ到着。夜中に土砂降りの雨の中ナイトランして、山を下ったころには…
本当はこのまままた数時間走って空港の傍のホテルにでもチェックインするつもりだったけれど結構参っていたのと、帰国の為の整理と準備もしなきゃいけないので近くの宿で待機…とは言え整理も時間がかかるもので、ほぼ不眠で仕上げて早朝出発、空港に向かうのでした。つら…。
洗ったり薬剤撒いたり書類書いたりしないわけにはいかないから…それが出来ないなら、全部置いてくるしかない。今回は疲れているから適当で…なんてことは許されないし、ばれなきゃいいってもんでもない。けじめはつけんといかん。と言う、ごく普通のコト。どんなにくたくたでも、諦められないなら、気張るしかないのであります。

何というか最後はヒドイ撤退となってしまった前哨戦ですが、戦果はばっちり。
次はあの間近で見れなかったもう一種っぽいヒドノもこの目で見たいものです…

…。
あ、まだ植物紹介は続くっぽいです。
by green-2-gleaner | 2015-07-26 12:32


あの日見たシダの名前を僕達はまだ知らない。


by ゆう

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