Avicennia marina /ニュージーランド

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Avicennia marina


ニュージーランドは北島を訪れ、その寒さにオドロキ、「こんなに寒い中でコケが豊かってどういうこと? キドニーが生えてるところっていったいどんなトコロ?」と想像に胸を膨らませながらの移動中。
…いつもの常夏の熱帯雨林とは全く異なるであろう植生ってドンナノだろうと心を躍らせながら、いざ、山へ向かって出発! と車を走らせる最中に突如遭遇したマングローブ林で出会った樹木です。

この時の私の困惑と言ったら、それはもう筆舌に尽くしがたい。NZの異世界感を思い知らされた最初の植生は、実はこの子たちの存在かもしれません。

マングローブ感覚がないと少しわかりにくい話かもしれませんが、基本的にマングローブは暖かい国の植物です。詳細な事まで解説すると大変なことになるので割愛しますが、最も寒い、北限と言えるエリアがちょうど日本の沖縄諸島あたり。マングローブと言ってもそれは単一の種ではなく多くの種の総称なので、勿論すべてのマングローブ植物の北限が日本に集中しているわけではありませんが、…例えばメヒルギは最も北で、種子島やら屋久島、人口植栽なら何とか鹿児島辺りまで存在するものの、他の種類は沖縄本島が限界だったり西表が限界だったりと、とにかく、寒さに弱く、凍結雪などは論外で、もっぱら東南アジアなどの常夏の世界でのびのびと生育し、広大な森林地帯を形成している感のある植物群なのです。

東南アジアでも、或いはニューカレなどでも、海沿いを走ったり、広い川を渡る橋を行くと、とにかく当たり前のように出会えるマングローブ林で、現地に行く時にはその土地のマングローブ林を見る事が、最初に「南国」を認識する目印になったりもするのですが、流石にこれだけ寒いニュージーランドでは、そのような景色は見る事は出来ないだろうと思っていました。いやはやあるはずがない…
そう思ってたら、広い河川の端々に、いつものように、当然のように広がる見慣れたマングローブ林っぽい光景が広がっているではありませんか。

んん???
なんじゃありゃ…? と首をかしげましたとも。

しかしまさか本当にマングローブ林なわけがないと思いましたし、川沿いに森があるんだろう、程度に思っておりましたが、それにしても大きな河川を渡るたびに目に飛び込んでくる。
見慣れたシルエット。どっからどーみてもマングローブ林。
何度か疑問に思いつつスルーして、しかしどーしても我慢できなくなって、車を止める事の出来るエリアを見つけて近づいてみました。

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…ヒルギダマシやん…

緩やかに流れ込む河川水。干潟の様にぬかるむ泥濘地。
鍾乳石の様に突き立つ筍根。どっしりと太く、ごつごつと歪で節くれ立った職人の指の様な幹。
ちいさな柿色の花。そして見慣れた種子。何処からどう見てもヒルギダマシでございました。
NZにマングローブって分布してたんだ!

繰り返しになりますが、平均最低気温は5℃になるような土地ですから、もっと寒い日だって時にはある筈。南に行けばウインタースポーツが盛んなお国。しかし生えているのは栽培下では15℃位ないと寒さで枯れるようなマングローブなわけです。意味が解らない。
楽しすぎる…

イロイロ理由を考えました。
例えばこの辺りは実はNZでも暖かいのではないか。

と言ってもオークランド近郊ですから、ネットで調べうる気温とそう変わる筈もなく、
河川水が実は工場排水などで温水になっているとかそう言う事も無く、浅く流れる水面に手を浸すとこれが刺すように冷たい冬の海。
例えば地温が高いとか、海流により暖かい海水が流れ込むとか、そう言う可能性(は、自分が考えたのでなく助言ですが)も、なさそうで、純粋に、この地の気候に馴染んでいるとしか思えません。だって結構あちこちに森林形成されていますし。

気温が5℃位になっても平気なヒルギダマシが居る。
としか思えないわけで、ちょっと戦慄します。

調べてみたところ、やはりヒルギダマシで、特に種小名が変わるわけでなく、
そのものヒルギダマシ。Avicennia marinaが”南限”として分布していることが解りました。
まさにニュージーランド北島が南の分布限界。という事のようです。

Avicennia marina subsp. australasica
或いは、シノニムとしてAvicennia marina var. resinifera
正確には、こうした名前のオーストラリア系の変種のようです。

ニューカレ、東南アジア、日本などでもたぶん見ているのですが、それらの変種名までは把握していませんが、流石に別種でしょう。そうなってくると俄然変種名まで意識して観察したくなりますが、パッと見あちこちで見てきたヒルギダマシと大きな形態的違いがあるように思えませんでした。
圧倒的に違うのは背丈で、熱帯地域では大きくなる背丈が二メートルにも満たない高さにしかなっておりません(若いわけでは無く、ちゃんと幹が太くがっちりして古木感)。日本のヒルギダマシなども同様であまり巨大にならないのですが、やはり寒いとそう言う性質が生育に向いているのでしょうか、北限と南限で同じ変種とはさすがに無いでしょうから、別の変種同士で環境の影響で似ている…素敵です。

勿論そう言った生態の考察もとても楽しいわけですが、
しかし大事なことは、
何より、
この種が、寒さに強くそれ程巨大にならないという事で…栽培者としてはそれはそれは嬉しい特性でありますな!
見た目は何度も言いますがそんなに違うとは思えないので、姿形で考えるなら「一緒じゃない?」
と思いますが、5℃まで耐える。5℃まで耐える…大事な事なので二回いました。凄い。ついでに言うと調べてみたら「意外と霜にも耐える」とまで書いてある。

霜に耐えるマングローブ! なにそれ! 塩に耐えるのまちがいじゃないのよさ!? 英文翻訳ですからそのような間違いはあり得ないので霜にも耐性があるのでしょうが凄すぎる。
…確かに現地の気温を思えば、たまの凍結位は絶えないと繁殖できないとは思います。
まぁ栽培下で同様に苛めて大丈夫とは思いませんし、怖くて霜にあてるなんて流石にできませんが、それにしても耐寒性能が高いというのは素晴らしい。普通のマングローブ植物なら、冬場窓際に置いてたら夜間気温の低下などで枯れてしまう恐れさえあるわけですが、こいつならなんとかなってしまいそう。
これは栽培してみたくなりますね。

流石に屋外栽培は無理でも、温室などで全力で加温しなければ維持が難しいマングローブ植物(しかも大体巨大になる)の一部をもし手軽に窓際管理できるとすれば、これはかなりの良スペックと言えますでしょう。個人的には、地味なようで味わいのある渋い花色も好きですし、マングローブと言えばまず支柱根を思い浮かべるかもしれませんが、どっこい筍根だってやっぱり味わい深いもんですぜ? 栽培下でどれくらいにょきにょき出してくれるのかはわかりませんが。
マングローブ植物を代表する種の特徴ある根を再現するのは正直かなりハイレベルな栽培維持施設が必要になりますが(そしてそれでもなお「出来るとは言ってない」)こいつなら或いは…と夢を見てしまいますね。

狙ったわけではありませんが…とてもいい植物に出会えた気がする…

何粒か種を持ち帰ってきたので栽培して楽しんでみます。思うようにいかないのがこの手の植物ですが、いい結果が出るといいなぁ…と妄想しながら。



とは言え、全てはまだ現地を見た感想にすぎません。
「イロイロ栽培に適してそう」な条件が整っていますが、だからと言って「栽培が簡単」とは限りません。そこが難しくも面白いところ。
結局栽培で筍根を出すのは難しかったり、栽培では案外寒さに耐えてくれなかったりするかもしれません。
解らないことだらけですが、こうして栽培に向いて居そうな種を見出して、選別して、実験して証明して、
そして世に「間違いない、これは栽培しやすい良いヒルギダマシだ!」と発表できるかもしれない、なんて、凄く楽しそうではありませんか…採取家、これぞプラントハンターって感じですね。
園芸界に寄与する方面での開拓。新種探しも熱いですが、品種選別だって楽しい。
まぁ大きなことを言ったものの、全然的外れの可能性の方が高いだけですが、夢見るだけはただ(笑)


植物の持つまだ見ぬ色々な可能性を想像し、時にその可能性が描く未来を信じて、向き合っていくのは中々に胸が躍ります。
こういう出会いがあるから、現地歩きはやめられませんね。






「なんでもいいけど、もっと細部の写真とか、引きの風景を写した写真はないの?」
「道すがらにたくさん見たモノだから、帰りにいつでも撮れそうで、そのまま忘れてた」
「帰りはキドニーの事しか頭になかったんだね。…また行って来い」
「ですよねー」
by green-2-gleaner | 2016-09-17 15:30 | Comments(2)
Commented at 2016-09-17 18:14 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by green-2-gleaner at 2016-09-28 22:41
まさに、新しい時代を創造出来そうな品種です…
とは言え、流石に水槽や小型ケースで大量に生産して実験や試験できるようなサイズではないので、自由にできる大型の栽培施設が欲しくてなりません…可能性はあるのにそれをこの手で生かしきれない悔しさ…
今は出来る範囲で、この子を観察していきます。いつか全力で栽培できるようになったときに活かすために…


あの日見たシダの名前を僕達はまだ知らない。


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主にコケシノブ科植物を探す中、気になった植物を見つけては一緒に持ち帰り栽培しています。

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